復元された幻住庵。

芭蕉が住んだ幻の棲家は、こんなに立派なものではなかっただろう。

 

 

幻住庵

 

岩間寺の原稿を書いていて、幻住庵に初めて行った3年前、道に迷いなかなか幻住庵にたどり着けなかったことを思い出した。本当に幻の棲家にたどり着いたのか、途中の記憶も曖昧になり、もう一度行ってみないことにはただの徘徊老人になってしまうだろうと思った。

 

JR石山駅を南に出て滋賀銀行沿いに南下しコンビニの角を西(右)に曲がり、突き当りを南(左)に曲がると北大路御霊神社に出る。御霊神社は壬申の乱(672年)の109年後(781年)に大友皇子の御霊を祀ったのが始まりとされる。
北大路交差点を南下し、近江国分寺跡(現晴嵐小学校)を左手に見てさらに南下すると東海道新幹線、名神高速道路を越える。ここに右折を促す案内表示があり右折、さらに案内表示通り左折するとやがて道なりに国分2丁目のバス停が見えてくる。右折して近津尾神社の鳥居をくぐると幻住庵まであと少しとなる。30分ほどで、幻の棲家に着いた。
途中、泉福寺という浄土真宗のお寺がある。川柳のようなユーモラスな説教が面白いので写真に撮った。
「忘恩」 借りた傘 雨が止んだら 邪魔になる

 

「幻住庵記」の冒頭部分をここに記す。
「石山の奥、岩間のうしろに山あり、国分山といふ。そのかみ国分寺の名を伝ふなるべし。ふもとに細き流れを渡りて、翠微に登ること三曲二百歩にして、八幡宮たたせたまふ。神体は弥陀の尊像とかや。唯一の家には甚だ忌むなることを、両部光をやはらげ、利益の塵を同じうしたまふも、また尊し。日ごろは人の詣でざりければ、いとど神さび、もの静かなるかたはらに、住み捨てし草の戸あり。蓬(よもぎ)根笹(ねざさ)軒をかこみ、屋根もり壁おちて、狐狸(こり)ふしどを得たり。幻住庵といふ。」
この庵は膳所藩士・菅沼曲水の伯父幻住老人が住み捨てたものだった。

 

 

芭蕉は元禄3年(1690)4月6日、菅沼曲水が改築した国分山の幻住庵に入り、7月23日まで逗留予定だった。ところが、この年は猛暑が続き8月1日までとどまることとなる。
判りにくいかもしれないが、江戸時代は太陰太陽暦を使っているので、8月1日は新月で、今の暦で言えば9月3日。猛暑なので9月まで移動を待ったということ。

 

「猿蓑」に収めた「幻住庵」を定稿とすると、「たまたま心まめなる時は、谷の清水を汲みて自ら炊ぐ」と独り暮らしをしているように見えるが、麓の石山までの買い出しは入門したばかりの各務支考(かがみしこう)が行った。これは鴨長明が山科日野に閑居してつづった「方丈記」をモデルとしたためであろう。なお、方丈記は散文としては最も簡潔にして達意の文章であると思う。また記録文学として高く評価する歴史学者も多い。芭蕉が鴨長明を深く敬愛していたであろうことは「幻住庵記」を読むとよくわかると思う。

 

幻住庵記は総文字数1600ほど、俳文の最高傑作と言われている。俳句は一つで
先ずたのむ椎の木もあり夏木立


入山して間もない元禄3年(1690)4月10日付、大垣藩士・如行に書簡を出している。
その中で、雲霧山気が身にこたえ、風邪をひいていること、四国・九州への旅を断念したことなどを書いている。

椎の実は縄文時代からの食糧で、どんぐり類を煮るために土器の類が進歩したという。芭蕉はそういうことをよく知っていて、非常食として恃むものがあったのだろう。

長年の無理がたたり、元禄7年、10月12日、大阪で客死す。

 

<参考資料>

「京都・湖南の芭蕉」さとう野火(京都新聞出版センター)2014年

 


大友皇子を祀った御霊神社。大津市内には3カ所の御霊神社があり、いずれも大友皇子を祀っている。

 

石山の奥、岩間のうしろに山あり、国分山といふ。

そのかみ、国分寺の名を伝ふなるべし。

 

近津尾神社の鳥居をくぐり、振り返って写真を撮った。

今にも降り出しそうな雲行き。

 

史蹟としてはここに幻の棲家があった。

 

復元された芭蕉庵の入り口。

 

石山駅に戻ってきて、こんな案内板に気が付いた。

貞享2年(1685)3月中旬初めて大津を訪れている。ここから岩間寺に行っていれば、翌貞享3年春の深川芭蕉庵での「蛙の句二十番句合」で「古池や」を披露することができる。

 

晴嵐小学校。近江八景の「粟津晴嵐」から名前を取った。

ちなみに石山駅北口に粟津中学校がある。

 

忘恩

借りた傘 雨が止んだら 邪魔になる

 

近津尾神社二の鳥居。

登ること三曲二百歩にして、八幡宮…

 

芭蕉の真筆だろうか?多分コピー。総文字数1600余り。

 

手水鉢にアジサイが添えられていた。

 

全国各地にある芭蕉像であるが、石山駅にもあった。

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